脚本・演出作法その2: 劇場入り そのとき演出家はどうすればいいのか 脚本・演出作法 2014年08月21日 0 「舞台設置ですか!? わたし、てつだいますよ!!」(大きな声で言おう!) いつもご覧頂きありがとうございます。立夏です。 今年からこっそりと始めた不定期更新記事「脚本・演出作法」ですが前回その1の更新が4月でした。 その1の記事の中で私、こんな風に書いておりました。 来週の稽古に向けて脚本をがすがすと書いているのですが、脚本を書いているとTwitterやブログなどのそれ以外の媒体の投稿量・頻度も増えてしまう事ってよくありませんか? そうなんですよ、今も「ヴェニスの商人」を書いているのですよ・・・、文章の息抜きに文章を書くのが私です。多分そういう人は多いと思うんですが、「息抜きに掃除をするようなタイプだったら今頃私の部屋はキラキラのはずなのになあ」と地獄のような部屋を眺めたりします(本当はそこそこ綺麗ですけど) さて、体系立った技術や為になるような論述はなにひとつ書かない脚本・演出作法、 精神論や偏屈な思い込みばかりの脚本・演出作法 その代わりと言ってはなんですが、私自身や周りの方の実体験も含めつつで、いわゆる紋切り型のWebで検索すると同じような事を書いてある記事が10件20件出てくるような正統TIPSじゃない、かつ学校で教わるような基本のキの字もないような偏りのある邪道的独り言でもって、芝居を作る方や芝居を観られる方や、これから芝居をやってみようかなと言う人達の心をムズ痒くしていきたい所存です。 第二回目のテーマは「演出家は劇場で何をすればいいのか」 この一文だけでウンウンと頷いた貴方は演出家さんですかね? 「やることいっぱいあるだろうが! 滅びろ!」とチョップをしてきた貴方はスタッフさんですかね? 演出家って何してるの? と思った貴方はお客様でしょうか? 「そういえばアイツなにしてんだっけ」と思った貴方は役者さんかもしれませんね。 今回の記事の大前提として明言しておきますが、演出家は、劇場に入ったらやることがありません。 「マジかよ」「嘘吐け!」とか「やることあるだろうが!」と言うお声も聞こえてくるようですが、ありません。 正確に言えば頼まれ事はありますし、やらなければいけない重要なことも山ほどあります。演出が劇場入りのときに不要と言う事はありません。そもそも「劇場入り」自体が演劇製作の中では最も時間に追われている場ですからね。 ただそんな火事場で演出家は「自分きっかけで進められる仕事 および 単独でできる仕事が殆どない」のです。 照明や音響の確認作業は、照明・音響責任者合わせで進みます。役者の準備も役者本人がします。受付は受付スタッフさんがいます。それぞれの役割を存分に発揮してくださいます。 「本番の舞台は役者のものだ」と言うような言葉を皆さんは聞いたことがあるでしょうか。これは真実です。正しくは「役者と、照明・音響現場スタッフのもの」だと思いますが、舞台表現はそのときやったものがすべてです。演出家は本番の舞台にリアルタイムで関わる事はできません。幕が開けば、もういよいよ演出は無力で、口出しはできません※。本番が始まる瞬間に・早ければ劇場入りの時点で、演出家の職務は全うされているのです。 これこそが演出家が劇場入りしたらやる事がなくなる一番の理由だと思います。 ※ 私はいつも役者が裏でコッソリ口裏を合わせていて、本番で急に阿波踊りを始めたらどうしようと毎公演考えています。 さて、そんな「演出家」とは何でしょう。映画で言うディレクター、サッカーで言う監督、作品単位での最高責任者、雑用の頂点、公の下僕、王様、みんなのお父さん、お世話係? どう表現するかは座組によって様々でやることや立場も千変万化です。。 今回の記事では、架空の座組での「劇場での演出家の振舞い方」をご紹介します。 「演出家って劇場で何してるの?」はい、こんなことをしています。そのとき、演出家はどうするのか ※ 以下に記述してある内容はフィクションです。記述にはかなりの誇張・虚偽があります。 どうか真に受けず、適当に読んで下さい。 「あるある!」と思ってくれた方がいたとしても、これはコミック記事です。 「おはようございます!」 某日 AM10:00 某劇場に東京の劇団 「誰の仕業」がやってきました。彼らは明日から二日間本番、前日である今日は「仕込み」と言われる本番に向けた準備日です。 照明チームの皆様は車から照明を搬入するや否や釣り込み図を囲んで打ち合わせ。音響さんは黙々とスピーカーを天井上のバトンに設置しています。 照明仕込みが終わるのが14:00、その後照明の照らす位置の調整や音響の音量レベルチェックの後、照明・音響の本番でのキューを確認するのが16:00、最後にリハーサルを行うというのが本日のスケジュール。役者は午後から劇場入りです。 さあ早速演出家としての仕事は照明仕込みが終わる14:00までありません。どうする演出家!その1: 別のスタッフの振りをする すると演出家、鞄から大量の紙束を取り出しました。パンフレットです。 お客様に受付でお渡ししたり座席の上に置いてある「当日パンフレット」と呼ばれるものです。 大きさは座組によって様々ですが、A4に印刷したものを半分に折って中にアンケートやチラシを挟むのが一般的です。つまりパンフレットは印刷した後折らなければパンフレットとしての役割をなさないのです。 演出家、ロビーの隅っこでセコセコと折り始めました。後ろに居る制作さんが「私やりますよ?」と言っています。「大丈夫、大丈夫。私やるから~」と返す演出家。いいのです。これで30分は仕事があるのです。 このように劇場では「誰がやっても構わないし最優先でもないが誰かが必ずやらなければならない仕事」を率先してやる演出家の姿が良く見受けられます。 A4の紙を折るのは技術的には誰でもできることですが、その為後回しになりがちです。そんな仕事は演出家に任せておきましょう。 知識や技術がある演出家の場合には音響スタッフや衣装・小道具スタッフの手伝いをする事も可能です。おや、隣の劇場では照明設置をしている演出家がいるようです。楽しそうですね。彼はしばらく居場所に困らないでしょう。手伝う内容に相応する技術があれば本職の方に迷惑を掛ける事もありません。 彼らは決して100%の善意でやっているわけではありません。自分の居場所を確保する為にやっているのです。他のスタッフの振りをすることで演出家は「仕事をしている人」でいられるのです。 おや、「誰の仕業」の演出家、パンフレットを折り終わってしまいました。 すると劇場に霧吹きを始めました。劇場は乾燥することが多いので霧吹きで湿度をあげて役者達の喉を守るのです。ただ、役者の入りは午後ですよ? まだ早いんじゃないですか? ちょっと吹き過ぎじゃないですか?その2: 買出しをする お昼の時間が近づいてきました。演出家が財布を持って立ち上がりました。 「私コンビニ行くけど、何か買ってきて欲しいものある人いますか?」 出ました伝家の宝刀、「何か買ってきて欲しいものある人いますか」です。 これは「私は自分の都合でコンビニに行きたいのだがみんなの欲しいものを一緒に買いにいくことによって自分は人のために働いていると言う正当性をください」と言うお願いをするときに使う言葉です。タイミングがよければ何人かの人がお使いを頼んでくれます。 皆さんが演劇関係者の方でこれを言われた側の立場になった場合、欲しいものが決まっているのであれば遠慮なく頼んでください。ものづくりは助け合いです。「あ、じゃあお願い」。この一言が彼らの心を救うのです。 ちなみにこの技を使ったとき「適当にいい感じのお昼買って来て」と言われることがありますので注意してください。これは「説明はしないが私の好みをテレパシーで把握して唯一絶対の製品を購入してきなさい」と言う愛の鞭です。本当に適当なものを買ってきてはいけません。まして「全部自分の好きなものを買って何を選択されても自分が好きなものを食べられるようにしよう」などとあざとい事をしてはいけません。その場合に備えて座組の食べ物の好み、一回の昼食に払える金額の上限、摂取したいカロリー量は事前に把握しておきましょう。日頃からSNSストーキングを怠らないで下さい。その3: 次の公演の脚本を書く・演出プランを作成する お昼も食べ終わって13:00。14:00まではまだ若干の時間があります。しかし振りをできるスタッフ業務もなくなってしまいました。役者は14:00からの照明合わせ、その後のキュー確認に向けてアップを始めました。ひとりぼっちです。 こういうときの為にノートパソコンを持ってきてください。次の公演の脚本を書きましょう。「私は演出専門で脚本は書かない」と言う方は演出プランを考えてください。 ノートはできればMacBookAirを用意しましょう。格好いい感じが出せます。 ただ、格好いいからと言って調子に乗って駅のカフェに行ってはいけません。劇場内でやらなければ意味がないのです。「仕事をしている」と言う事を見せつけなければカフェでお茶をしているのと同義です。「俺は俺にしかできないことをしている」と全身全霊でアピールしてください。足を組んでください。Enterキーはやや強めに叩きましょう。気付いてもらえます。気付かれたからといって何が起こるわけでもありませんが。 また、客席設営をする前には速やかに撤退してください。その4: いっそ、何もしない。それから、 客席設営が終わりました。13:50。まもなく照明の準備も出来上がります。 演出家は出来上がったばかりの客席の最前列に座って舞台をじっと眺めています。 さあその目は何を考えているのでしょう? 分かりません。 すれ違った役者達や、操作室にいる照明・音響スタッフさんが時折演出家に何か声をかけています。質問をしているようです。回答をする演出家。 多分、演出家の仕事の一部は「何もしないこと」そのものなのだと思います。 ただそこにいて、何かが起これば考えて、回答する・選択する。その幾つかの選択はどうやら演出家にしかできません。なぜかというと、周りも、演出家本人も、そう思っているからです。 本番は役者と現場スタッフのものです。これは真実です。ですが、本番を背負う役者やスタッフの不安をひとつでも少なくできるように、お客様にもっと楽しんで・ワクワクしてもらるように、幕が開くまでのあとわずかの時間、演出家は舞台を見つめます。 時に役者の目線で、時にスタッフの視線で、最後に、お客様になりきって。演出家は何もしないでただ見ています。 もしかしたら演出家を志してこれから初めて舞台に立つ演出家さんがこれを読んでいるかもしれません。もしかしたらあまりの手持ち無沙汰にオロオロしたり、「何かしなきゃ」と慌ててしまうかもしれません。 でも大丈夫。あなたの視線は、あなたにしかないものです。 あなたが落ち着いていれば、座組も安心して貴方にいろいろお願いしたり、質問したりできます。 さあ、幕が開きます。素晴らしい舞台を!! どっちにしろ、この後そこそこ忙しいですよ!! PR