忍者ブログ

獣の仕業のしわざ

劇団獣の仕業のブログです。 日々の思うこと、 稽古場日誌など。

獣の仕業 [THE BEAST] 終演のご挨拶〜演劇の所在地へよせて〜



 立夏です。
 獣の仕業第十三回公演[THE BEAST]にご来場いただきました皆様、誠にありがとうございました。
 
 皆さん、演劇好きですか。
 私は好きです。
 
 [THE BEAST]では、3018年の地球で、最後のエンゲキジンの生き残りのなった男と、カンキャク最後の生き残りとなった女、そして演劇を愛しながら泥人形になった女たちの物語を製作いたしました。入り口の設定としてSF的な要素を用いつつ、内容としては演劇人が日々直面している大小様々な事情を軸にした作品でした。


 
 劇中起きたエピソードや登場人物たちが語る事情は、私がこれまで演劇人の端くれとしてときに直接、ときに間接的に見聞きしたものたちです。「あるある」と思っていただいたことも「ねえよそんなもん」と思ったこともおありかと思います。



 それはそうです。私もそう思います。
 演劇を作る中で考え方も色々変わってまいりました。その、これまで経過した価値観がすべて矛盾しながら同時にあるような状態になっている、というのが現在の自身の状態です。
 
「演劇を好きになったのはたまたまだ」とも思い、
「私にはこれしかない」とも思い、
「演劇やってる私って結構イケてますね」とも思い、
「泥も結構いいもんだよ」とも思い、
「好きなことを続けるのって難しいのかもしれないね」とも思い、
「俺が世界で一番だ」とも思い、
「みんなが喜んでくれる演劇できるようにヘタクソだけど頑張ろう」とも思い、
「ほらズルじゃん」とも思い、
「ゴシャゴシャうるせんだよいいから演劇やれ」とも思い、
「そんなそれぞれの事情こそが演劇だ」とも思います。



 たくさんの矛盾。それならばその矛盾したすべてを同時に舞台にあげてみよう……
 価値観を特徴ごとにそれぞれの登場人物に割り振りましたがすべて私の中では「正」です。どれも正しく、あるいは正しさなどありません。


 
 今回の作品は相変わらずかなり好きに書かせていただきましたが、唯一細心の注意を払ったのはそこでした。
 演劇という自分が現在携わっている業界に対して、特定の価値観を称賛しあるいは批判しているように見えないこと。
 
 細心の注意を払いすぎた結果、全方位ガッと突き飛ばしてギュッと抱きしめる結果になったわけですが……私は、それらがすべて演劇なのだと、思っております。
 
 俳優も、脚本家も、演出家も
 小屋付きも、照明家も、音響家も、舞台監督も
 小道具も、衣装も、カメラマンも
 演劇始めたばっかりで楽しくてしょうがないあなたも
 なんで演劇やってるのか分からなくなってしまったあなたも
 自分の演劇は最高だと思ってるあなたも
 最低だと思って落ち込んでるあなたも
 演劇でお金を稼ぐ方法を真剣に考えているあなたも、
 お金のことは気にせず自由な表現をしたいと思っているあなたも、
 っていうかとっくに稼げてますけどというあなたも
 演劇を辞めたあなたも、やめそうなあなたも、やめる気なんてさらさらないあなたも
 どんな演劇でも褒めちゃうエンジョイなあなたも
 どんな演劇でも批判しちゃうストイックなあなたも
 自分さえかっこよければいいあなたも
 自分だけかっこよければいいってやつ何なのって思ってるあなたも
 別に演劇じゃなくていいあなたも、演劇じゃなきゃ駄目なあなたも、
 そもそも演劇の定義をしよう話はそれからだって感じのアカデミックなあなたも、
 みんなが笑って泣ける演劇を作りたいあなたも、
 俺の作品は分かってくれるやつだけ分かればいいってあなたも、
 うるせーブログで語ってないで作品で語れよってあなたも、
 
 全員、すべからく、演劇だ。
 いいぞいいぞ、もっとやれ。
 
 皆さん、演劇好きですか。
 私は好きです。


 
 そして、観客の皆様、
 色んな芝居を飛び込みで見るあなた
 自分の好きな劇団に熱心に通っているあなた
 毎日のお給料のほとんどがチケット代に消えてしまうあなた
 年に一回の観劇を楽しみにしているあなた
 演劇を盛り上げたいあなた
 私も演劇始めてみようかなというあなた
 生涯イチ観客でありたいと決めているあなた
 当分演劇はいいわと思っているあなた
 昨日はじめて演劇をみたあなた
 
「演劇」にようこそおいでくださいました。
 あなたたちがいなければ、演劇はどこにもありません。


 
 今回のテーマを85分で作り切るために、繊細な部分やもっと丁寧にたっぷりと書けたであろう部分を、作劇は大幅に省略いたしました。正直、文字情報で言えば足りていない部分が多くある作品だったのです。

 それでもこの作品に少しでもリアリティや奥行きがあったとするならば、それは観客席の皆様の、演劇に対する大きな思い入れによる支えなのだと思います。
 
 まさに観客の演劇に対する思いなしでは成立しない作品であり、演劇が俳優と観客同士の対話によって表現されるフォーマットなのだと改めて実感いたしました。
 ご来場いただいたことやご声援いただいたことに加えて、心より御礼申し上げます。


 
 公演に関するご感想、ご意見もまだまだお待ちしております。
 SNSで「#獣の仕業」を付けていただけますと気付きやすいです。メールでのご感想もお待ちしております
 swz@live.jp
 
 また、公演の写真もたくさんありますので、
 登場人物の振り返りなどを引き続きしていこうと思っております。


 
 これを糧に獣の仕業はまた次のステージを目指していきたいと思っております。至らぬ点、力及ばぬ点も多くあったかと思います。今度とも精進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。
 
 改めまして、獣の仕業 [THE BEAST]
 これにておさらばです。

 現在あるいはかつて演劇に身を捧げたすべての演劇人の皆様、そして演劇を愛するすべての観客の皆様、誠にありがとうございました。

「じゃあ、また、やりますか。」
 
 2018年12月 獣の仕業 代表 立夏

PR