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獣の仕業のしわざ

劇団獣の仕業のブログです。 日々の思うこと、 稽古場日誌など。

脚本・演出作法その1:独断と偏見の作家タイプ別分類


(まめ芝。その伍「助ける」の上演台本の1ページ目)


 いつもご覧いただきありがとうございます。
 立夏です。

 来週の稽古に向けて脚本をがすがすと書いているのですが、脚本を書いているとTwitterやブログなどのそれ以外の媒体の投稿量・頻度も増えてしまう事ってよくありませんか?
 自分が正にそれで5月の半ばくらいまではこの状態がしばらく続くのではなかろうかと思います。

 さて今回から、自分がブログに書かせて頂いている脚本・演出のヨモヤマを、思い切って「脚本・演出作法」と名付けて不定期連載にしてみようかと思います…。
 最初は「脚本・演出技法」にしようかなと考えていたのですが、流石にちょっと盛り過ぎデスヨネと思いまして「作法」にしました。作法でも十分誇張があるとは思うのですが。

 体系立った技術や為になるような論述はなにひとつ書かない脚本・演出作法、
 精神論や偏屈な思い込みばかりの脚本・演出作法
 その代わりと言ってはなんですが、私自身や周りの方の実体験も含めつつで、いわゆる紋切り型のWebで検索すると同じような事を書いてある記事が10件20件出てくるような正統TIPSじゃない、かつ学校で教わるような基本のキの字もないような偏りのある邪道的独り言でもって、芝居を作る方や芝居を観られる方や、これから芝居をやってみようかなと言う人達の心をムズ痒くしていきたい所存です。


 第一回目は「独断と偏見の作家タイプ別分類」


 「脚本を書こう・と思うきっかけになるモノで一番最初に頭に浮かぶ要素は何ですか?」

 これは色んな作家と個人的にお話しができる機会を度々頂いた時に、自分が好んで良くする質問の一つです。脚本を書く原初のエンジンになるモノは何ですか・と言い換えても良いと思います。

 聞いてみると本当に様々・作家の数だけ拘りがありいつも聞いていて楽しいです。そこで勝手ながら、それらを乱暴にまとめてタイプ別にしてみました…恐縮です!


1.台詞、タイトル

 作品の主役は台詞もしくは物語となるので、物語と比較すると登場する人物達は物語に従属することになる人達。
 殆どの作家さんは「台詞」と答える多数派分類(ただ「タイトル」はあまり聞いたことがない)。日常生活を送っている時にふとフレーズが頭の中に浮かんできて、その後はこの台詞・タイトルを使って一本物語を書くことは出来ないか、と言う手続きをしていく事になる。この手の方は物語を考えるのがとても得意な人なのではないかと思う。ひとつふたつの(発想時点はまだ何の連続性もない)台詞だけで、その前後のストーリーを編む作業が必要になる。
 このタイプの人は想像力豊かなのは勿論、体力的にタフな人が多いように感じる。台本を書き終えるのが先か、想像力が尽きるのが先か。孤独なデスマーチ。体育会系なのでギリギリまで自分を追い込む。頑張ればできるぞと言う洗脳を自分に掛け続けている(実際書ける)。
 そして苦心の結果出来上がったモノに最初に考えた台詞やタイトルが…あれ?ないぞ?まあいっか。ということも。


2. キャラクター、人物

 次に多いのはキャラクターと言うか、人物もしくは肩書き。 こちらの場合は物語が登場人物に従属している。「こんな人いたら面白いんじゃないかしら」と言うところが発想の起点になる。例えば白いモノしか食べられない魔法に掛かってしまった人であるとか、肩書きだと指名手配中の犯人だけど警視総監、とか(この例が面白いかどうかは絶対に責任を持ちません)。
 このタイプの人で面白いものを書ける人は割合理論派が多くて、エンジンとなるキャラクターを考えたら次の手順としてその人を活かせるような周りの人達を創造していくらしい。最初に考えた役と正反対の存在をライバルにしてみたり敢えて身近な存在にしてみたり。もしくは似たような境遇の存在を配置してみたり。
 自分が作品を作る時の「自分なりの手順」と言うものを自覚している方も多いようで、一人目が思いついてしまえばあっという間に書き切ってしまうと言うことも。多作・筆が速い人が多い。
 ある人は、いつも似たような筋の話を作りそうになってしまう事が悩みだそうです。


3. 演出、テクニカル(舞台装置、照明、音響)

 個人的に聞き回ってみた結果意外と支持が熱い層。演出兼任している作家さんに多数。
 物語も人物も一旦置いておいて「どう見せたいか」が第一優先で原初。「舞台上に一面水を張ってみたい」「真っ暗な中でやりたい」「天井から薔薇の花びらを降らし続けたい」「舞台上で米を炊くぞ!」など、アイデアの数も全グループの中でピカイチであるが無茶を言い過ぎて周りのメンバーに良く止められる。ストーリーがあってないような作品を書く人も潜在的にはこの系統。
 自分の頭の中に思い描いた見せ方を実現する事が使命なので、脚本はただの文字列というか道具と言うか踏み台という認識。その為出来上がったテキストを役者に見せると何ともミステリアスな表情をする。
 このグループにのみ特化している人は「書きたいものなどない」と明言するので注意。役者が「このストーリーのテーマは何ですか?」と言うとそんなものはありませんと言った風な答えが返ってきてしまう事がある。そういう時は、「このシーンはどんな風に見せたいですか?」と聞く事を推奨。たっぷりと語ってくれるに違いない。


4. 設定、プロットの一部

 一番正統派と言えば正統派だけど実はそんなにいない。キャラクター派や演出・テクニカル派と類似しているものの、こちらはキャラクター派よりはもう少し起承転結の一部があり、演出・テクニカル派よりももう少し具体的。「気弱な少年が忍び込んだ船が実は海賊船だった」とか「行方不明の青年からの手紙が女たちのところに届き、女達は協力して男を探しに行く」など。
 最初に思いついた時点で物語の一部が出来ているので書き出しが速い。一旦書き終わるのも速いがサアいざと自分で読んでみると「あれ40分しかないじゃないか、他に何を書けば良いんだ現象」がたまに起こる。そこからの再構築が苦痛らしい。
 すべての要素が力強い物語の筋に収束するためか、キャラクター派の人より実は群像劇や大人数芝居が書きやすいと仰る方が多いようです。
 
 
 ここから少数派になっていきます。


5. 場所、土地

 原初にあるのは場所、土地、風景。そこは実際の場所であったり空想の風景だったりこの世の何処にも存在しえない場所であったりする。「その場所が書きたい」もしくは「そこで生きる人々を描きたい」と言うのが創作の原動力になる。
 実際に存在する場所をテーマにする場合、必ず現地に取材に行くという方もいる。勿論場合によっては劇団員も強制連行である。実際の場所を起点に後は空想で書くという種類の作家さんも。当然ここに属する方は舞台美術への拘りが強い方も多い。台詞はさりげなく、リアルで、作られた台詞回しが少ない傾向。
 作品の中の頂点は勿論「場」。場は何も語らずただそこにあるだけ。だから場所にのみ特化すると台詞量そのものが激減するようです。


6. 時代

 少数派と言うよりは一部の人がこれを好んで沢山書かれる。勿論「時代物」の事。特に和物が人気。殺陣を入れるか入れないかで見えない透明な境界線がある(らしい)。
 ここの方はとにかく「設定萌え」で蒸気機関車!袴!ステンドグラス!馬車!貴族階級!うおおおお!ご馳走様です!
 書籍や当時の新聞を調べたり、調査量はナンバー1。今年の作品のことを調べている間に別のテーマも興味が出てきていつの間にか二作品出来てしまいました。ありがとうございます。
 とにかく知識と勉強量が糧になるので何となくでこのジャンルに手を出すと危険。
 場所土地の人達が台詞が少なくなるのに対してこちらはどうしても台詞が多くなる。特に時代背景を説明する「説明台詞」と「これは一体誰に説明してるんだ…?」と言う葛藤が避けられないそう。


7. 俳優

 「この俳優が使いたい」と言う種類の方々。前回の「あてがき」の記事で書いた「俳優のことを考えて本を書いてみる」と言う描き方の手段とはまた少し違っていて、まず先に「君に決めた!」と言うのがあってそこから「この俳優を舞台に上げてとにかく面白いことがしたい」と言うのが目的で演劇では極めてレア。コントグループにはとても多い。
 極端に振り切った人にひとりだけ会ったことがあるが、その人はある俳優を稽古場でひとり真ん中に立たせて「さあ1時間面白いことをし続けろ」と言ったとか、言っていないとか。


 以上、独断と偏見の作家分類、いかがだったでしょうか?

 何百人にアンケートを採ったわけではないので実体とは違う部分も多々あるかと思いますが、ひとりひとりに素朴にゆっくりお話を聞いた積み重ねなので、妙にたまにリアルなところで書けたのではないかなと思っております。
 ただ、多種多様な作家さんたちをこんなに少ない分類で分けられるはずもなく、殆どの方はこれらすべての要素を少しずつ跨って持っていたり、ここには書ききれなかったモノを当然お持ちかと思います。
 自分はコレかもな?とか、役者さん達も「あの作家はこのタイプかも」など、半ば血液型占いのように温く読んで頂けたら幸いです。(と、最後に書いたらアレなのでしょうか)

 最後にちょっとだけ真面目に書かせて頂くと、これを読んでいる方でもしこれから脚本を書いてみたいなあと思っている方がもし居たらですけど、一番最初は、あなたの一番好きなモノを書くのが良いと思います。好きな人、好きな食べ物、好きな家族、好きな写真、何でも良いと思います。好きなモノを数えて、何故ソレが好きなのかを考えて、それを言葉にすればいいと思います。
 (個人的な考えですが「嫌いなモノ」で作品を作るのは二作品目以降の方が良いと思います)


 それでは、最後までご覧頂きありがとうございました。
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