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獣の仕業のしわざ

劇団獣の仕業のブログです。 日々の思うこと、 稽古場日誌など。

脚本をつくるときに大切な「場所、時間、季節、温度、それから話し声」のこと

立夏です。ブログでは出演者紹介が盛り上がっておりますが、今回の記事はその短期手中連載から少し横道にはずれて…
 数週間ほど前に、脚本に出てくる一人二役のことについて書いたが、今回はその脚本を書く場所についての話を。

 (よろしければお付き合いください)

 第三回公演「雷魚、青街頭、暗闇坂、あるいはうしなわれたものたち」の頃から今までずっと続けてきたことがある。
 それは「脚本を書く場所と時間を限定する」と言うこと。
 自分の気持ちを表現するようなモノづくりをした時のことを思い返していただけると一定数共感いただけることと思うけれど、これはとても単純なことで例えばメールでもいい、携帯で打ったメールはその時の感情はもちろん、更に何時に、どんな場所で作られたものかによってその手触りが変わってくると思う。

 朝よりも夜のほうが不安な気持ちになるから大事なことは午前中に決めたほうがいいであるとか、雨の日は頭痛がするとか。先に場所や時間などの環境があって、その環境が私たちの感情に作用していく力を私はずいぶん信じている。些細なことであるし、気分の問題なのかもしれないのだけど、演劇をやるうえで些細なことや気分の問題はむしろ一番大事なことなのではないだろうか。

 私が脚本を書くときのルールは、その環境を可能な限り揃えるということだ。

 次回第七回公演「群集と怪獣と選ばれなかった人生の為の歌」はもう脱稿しているけれど、第三回公演から第七回公演の今まで、それはある程度の目に見える結果を出しているような気がしていて、それは細かい部分や私だけが知っている(もしくは伝えきれなかった)部分を除くと、概ね「作品の持つ空気感が、脚本を書いていたその時間や場所の空気感と同じになる」と言うことになっている。

 第三回公演「雷魚、青街頭、暗闇坂、あるいはうしなわれたものたち」の執筆時期は7月~8月、熱い部屋で雨戸をしめ切って真っ暗な部屋で扇風機もクーラーも付けずに書いている。もちろんとても暑かったので…、机の上には常に2Lの麦茶を用意していた。
 第四回公演「飛龍伝」も同じような書き方をしている。ただ扇風機は付けた。
 この二つの作品は上のようにどちらも同じような環境で書いていて、どちらも陰鬱で、まるで密室の中のような抑圧された空気の作品となった。
 この「暗い中で書く」と言うのが私の脚本を書くときの基本スタイルにいつの間にかなっていて、獣の仕業のあの緊張感や薄暗い空気は脚本を書いているときの場所によって一部作られているのかもしれない。
 第六回公演「オセロ」と番外公演「助ける」も同じように暗い場所で書いている、けれど、こちらは常にセリフを発話しながら書いている。
 またオセロから雨戸がない家に引っ越してしまったので書く時間は夜に限定された。

 この雨戸がなくなった件が自分で発見だったのは「雨戸を閉めて夜のように書く」ことと「夜に書く」ことは全然違うということだった。
 これは自分の細かい感覚なので実際に作品に反映され切っている自信はないけれど、「雷魚」「飛龍伝」に比べて「オセロ」「助ける」の方がより内省的に、下にもしくは内に籠って行くような手触りになっている。書いているときの気持ちも、この二作品が一番苦しかったかもしれない。それはきっと夜の力だ。

 第五回公演「せかいでいちばんきれいなものに」だけが異なる違う書き方をしていて、これは午前中に窓を開けて書いている。また、上演時期の都合この作品だけ執筆時期が明示的に冬だった。
 今まで暑くて暗い中で書いていたのが、この作品で明るくて眩しい中で書いていることになった、そして、正にそのような雰囲気を持った作品となった。特に自分の中で象徴的なのがラストシーンには脚本5ページ分(約3000文字)の女優5人でのユニゾンの長セリフで、これはすべて観客への呼びかけとなっている。明るい場所で書くと気持ちが外に向かうのかもしれない。

 さて、このように、毎回少しずつ書く場所を変えているのは、まあ何と言いますか、私の密かな遊びのようなものです。もし本や音楽を作っている人、もしくはこれから大切なメールを書こうとしている人がこれを読んでいたとして、「すてきなものを作りたいな」と思ったら、あなたが素敵だと思う場所、あなたが作りたいもののような風景の場所で作ってみるのを熱くお勧めしたいです。

 今回の「群集」においては、今までとは少し趣向の違った環境を作っている。
 これは内容には触れないのでネタバレにもならないから言ってしまうと、今回は脚本を手書きで書いている。最終的にはデータにするのだが、PCを使うのは手書きのものを打ち込むときだけにして。その時少し画面で修正を加えるのだけれど、とにかくベースは今回はノートとペンで作っている。

 また時間の許す限り喫茶店で書くようにしていた。人のいる場所、特に知らない人の話し声が聞こえる場所と言うことで。
 書いている間には、いろんな声がした。私の知らない人々、人々も私のことを知らない。そこには楽しそうな声、悲しい声、怒っている声、もう二度と聞けないかもしれない群集たちの声。
 ふいに聞こえた声をいくつか、脚本にそのまま拝借させていただいた。このセリフが具体的になにか・というのは、わたしだけの宝物にしておきたい。(これは聞かれても答えないようにしようかなと、思っていたりします)

 これがどんな影響を作品に及ぼしているかどうか、ぜひ劇場に足を運んでご覧いただければ幸い。



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獣の仕業第七回公演
群集と怪獣と選ばれなかった人生の為の歌
The Act of Beast 7th Stage
[The Requiem for my Crowds, my Monsters, and my Lives]

9/28,29(土日)
@荻窪小劇場

詳細は獣の仕業ホームページ公演特設ページにて



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