「象」終演のご挨拶 次回公演 2018年09月14日 0 獣の仕業 The Out of Beast 2018「象」お陰様で無事に終演いたしました。 ご来場いただいた皆様、ご支援くださった皆様、ご声援くださった皆様、誠にありがとうございます。 毎回のことでありますが、今回も皆様の多大なお力添えのお陰で公演を最後まで行うことができました。心より御礼申し上げます。 少し、別役実さんの作品との出会いや関わりのことを書きます。 別役実戯曲を獣の仕業で上演したのは2017年の「門」から二作品目です。しかし、実を言うと学生の頃に一度同氏の「病気」という作品を演出したことがあり、個人的にはそれが「別役実ことはじめ」だったりします。2006年に上演しました(久しぶりに学生時代のHPを確認しましたので確かです)その頃は、演劇とコントの中間の脱力系仕立ての作品にしたので、今の獣を良く見知っている方にとっては意外かもしれません。 当時の学生の時分、作品に対して感じたのはとにもかくにも脚本の扱いづらさでした。 意味を感じないムダなやりとり、とぼけたような「スカシ」とも取れるようなボケの数々、そのクセ伏線は緻密でカットもしづらい……、「分かりづらく」「楽しみづらく」つまりはとても「扱いづらい」──当時は別役作品をそんなふうに解釈しておりました。 私には合わないな……とも感じておりました。 それから時は約十年経ち、いつの間にかその別役さんの作品を大層気に入り二作品も演出してしまった私です。 かつては「意味のない」と感じていたやりとりが、重要なシーンと同じモチーフが使用されていることで作品の統一感を出すのに一役も二役も買っているし、一見して意味がないと感じてしまったシーンが実はよく読むとクライマックスのシーンと同じセリフ構成で書かれていたり、スカシボケのように感じたものも、今なら「ただただ普通にやるのが一番面白いんだな」という一旦自身の中の回答は得られています。当時は気が付くことができなかった作品のたくさんの魅力に今の自分が気付けていることを嬉しく思います。 また元々獣の仕業で別役を上演した動機としては「多分、獣は別役は向いていないから」というのがありました。 獣は身体性が強い劇団であり、一方で別役の戯曲には語りの面白さがある……、獣が別役をやることは、別役戯曲の面白さを削ってしまうことになるのではないか……そんな風に考えていたからです。 でも、だからこそ、やってみようと。 語り、特に「台詞の正確な意味情報を伝える」「台詞中の言葉本来の手触りを伝える」という点において、私たちの劇団は主観客観ともに評価としてもすさまじい弱さを抱えていて未だに改善の余地アリアリなのです(もちろんこれは身体性について改善の余地がないほど洗練完了している、という意味はまったくありません)。その劇団が語りの旨味を味わう別役戯曲に挑戦するということは、語りを重点においた劇団とはまた違った角度で別役戯曲を浮かび上がらせることができるだろうということと、そして、劇団が進化していく上で、つまりは今後更に良質の作品を作れる団体になるために意味があることだろうと思いました。 その上で、やはり別約戯曲を選択した責任として、自分のオリジナルの戯曲とはまったく異なる琴線で書かれた洗練された語りたちに誠実に向き合うこと。 その誠実さの証として、原作戯曲に極力手を加えないこと。 これらが演出家としての「象」に対する取り組みでした。その点においては今回の公演は一定の成功を収めたと自負しております。 私はものづくりにおいて一番偉いのは「作品」だと思っております。 演劇に関して言えば、演出家、作家、音響、照明、制作、俳優、観客など他にも様々な構成要素がありますが、何より偉いのは「作品」。この価値観は私は今後しばらくは変わらないはずです。 今回ほとんどテキレジが入っていないことを「劇作家への敬意がある」と評してくださったお客様がいらっしゃいましたが、私の中ではその辺りの感覚が厳密に言えば異なっていて「別役実さんへの敬意」ではなく順番として先にあるのは「『象』への敬意」なのです(もちろん「象」への敬意の矢印の更に向こう側に別役さんがいらっしゃることは承知しているのでほぼイコールではあるのですが………) 「作品」が一番偉いというのはどういうことかというと、たとえば・自分たちの表現方法を優先して、それが合わないシーンを改変する・俳優の得意な表現になるように台詞の言い回しを変更する と言ったようなことです。 どんな技を使っても構わないが、あくまで戦うフィールドは「作品」。作品を「自分たちらしい表現」の踏み台にすることは個人的なルールとして禁じています。私にとってそれは、サッカーの大会なのにバットとグローブを持ち出してきて「これが自分たちらしさだ」とのたまうようなものなのです。サッカーのフィールドでプレイがしたいのであれば、まずはサッカーのルールや技法を習得すること。その習得の先にしか「自分たちらしいサッカー」なんてありはしません。というように、作品が要求する技法やルールがあるならば、劇団側がそれを習得する、勝負はそれから……そんなところでしょうか。 そんなふうにしていたものですから今回何人かのお客様に「別役作品似合うね」と言っていただけたことは非常に嬉しかったです。 すみません、ずいぶん話がそれました。 何にせよ、別役さんも、サッカーも、まだまだ奥深そうです。また何年後かに「象」を読み返したら「なんであのときこれに気が付かなかったんだ」と自分にがっかりする日もきっと来るのでしょう。そのくらい、別役戯曲の沼はとてつもなく深かったです。これからも機会を作って挑戦していきたいと思っています。 また別役実様、「門」に続き「象」に関しても上演ご承諾くださり、誠にありがとうございました。 そしてご来場の皆様、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。また、これからも精進してまいりますので今度ともよろしくお願いいたします。 次回公演は12月です。年末に第十三回公演[THE BEAST]というオリジナル新作を発表いたします。劇団結成十周年記念の第二弾として「獣」という文字をタイトルに冠し、総決算的な公演ができればと思っております。まあまあ大風呂敷を広げてしまったなと思いましたが、どうしてもやりたかったんですよ。バンドがバンド名と同じタイトルのアルバムを作るようなことを。「どうだ、これが獣だ!」というようなものを。自分たちの表現方法にも幅が出てきたことが一番ですが、十年という節目に背中を押されたことも大きいです。 もちろん、はじめてご観劇される方にも楽しんでいただけるのが大前提ですし、特にオマツリワッショイ的なことはしないと思いますので「まあいつもの獣なんだな」と思っていただければ幸いです。もちろん、ご期待には存分にお応えする所存でございます。獣の最高傑作はいつでも「次回作」でございます。 それでは、まだ年の暮れにお会いしましょう。 それまでしばしのお別れです。ありがとうございました! 2018年9月 獣の仕業 立夏 拝photp by かとうはるひ PR